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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)734号 判決

控訴人

中川謙輔

控訴人

小島明

右両名訴訟代理人

渡辺惇

被控訴人

マルチ産業株式会社

右代表者

須田五郎

右訴訟代理人

山根晃

主文

一  原判決中、控訴人らの予備的請求に関する部分を取り消し、右部分につき本件を横浜地方裁判所に差し戻す。

二  原判決中その余の部分に対する控訴人らの控訴を棄却する。

三  前項の部分に関する控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴会社が昭和五〇年五月三〇日に行なつた第三回定時株主総会における第三期営業報告書、貸借対照表及び損益計算書承認の決議は無効であることを確認する。(三)(予備的請求として)被控訴会社が昭和五〇年五月三〇日に行なつた第三回定時株主総会における第三期営業報告書、貸借対照表及び損益計算書承認の決議はこれを取り消す。(四)訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の主張は、原判決五枚目裏五行目から一〇行目までを削除し、六枚目表四行目に「否認し、」とあるのを「認めるが、」と改め、予備的請求の出訴期間に関する双方の主張として以下のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

控訴人は、「仮に控訴人主張の瑕疵が決議取消の理由として処理されるべきであるとしても、このような、総会決議そのものの瑕疵なのか、総会運営上の瑕疵なのか必ずしも明確でない事由につき、これを理由に決議無効の訴を提起してある以上、本来、予備的請求として決議取消請求が包含されているものと解釈すべきであるから、右請求の出訴期間遵守に欠けるところはない。」と述べた。

被控訴人らは、「控訴人らの予備的請求は昭和五二年五月二四日に提起されたものであるから、商法二四八条所定の出訴期間経過後の訴として却下されるべきである。決議無効確認の訴に決議取消の訴が包含されているとする控訴人らの主張は、両訴を別個に規定している商法の法意に反し、訴訟係属関係を不明確にし、相手方たる株式会社の防禦にも不当な不利益を与えるもので、採るべきでない。」と述べた。

理由

一当裁判所も、本件総会において承認決議のなされた本件計算書類は監査役の監査を経ていない旨の控訴人らの主張事由は、決議取消の訴の理由たるにとどまり、決議無効の理由とはならないので、右決議の無効確認を求める控訴人らの主位的請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決七枚目表八行目から同裏一〇行目までに説示されているところと同一であるから、これ(但し、七枚目表九行目に「三日」とあるのを「三〇日」と訂正する。)をここに引用する。

二そこで、右決議の取消を求める控訴人らの予備的請求の適否について判断を進める。

思うに、法が決議取消の原因として定める手続上の瑕疵も、決議無効の原因として定める内容上の瑕疵も、決議の効力を否定すべき原因となる瑕疵たる点においては本来異なるところはなく、ただ、会社関係における法的安定の要請から、前者は瑕疵の程度が比較的軽いものとして、法が出訴期間の定めをおき、右期間の経過とともに決議の効力を争うことを遮断しているにすぎない。かかる法の趣旨に照らすときは、本件におけるが如く、控訴人らが、取消の訴を提起しうる適格を有する株主として、前叙のとおり決議取消の原因となる瑕疵を理由に、決議の効力を否定しようとする訴訟を、取消訴訟の出訴期間たる決議の日より三月内に提起している場合においては(本訴の提起が右期間内である昭和五〇年八月二〇日になされていることは、記録上明らかである。)、それが決議無効確認の訴として提起されていても、当該瑕疵を理由とする決議取消請求を予備的に含むものと解するのが相当である。けだし、決議取消の原因となりうる瑕疵を理由に決議の効力を否定しようとする趣旨が明確に窺知される以上、かく解しても出訴期間を定めた法意に何ら反するところはなく、逆に、訴訟形態が異なることを理由に、かかる場合にも出訴期間の経過とともに決議の効力を争いえなくなる遮断効が生ずることを認めることは、瑕疵の法的評価の責任を、挙げて提訴者の負担とするもので、失当たるを免れないからである。本件において決議取消の予備的申立が明示されたのは出訴期間経過後の昭和五二年五月二四日であることは、記録上明らかであるが、右は当初からの訴に包含されていた前叙の訴旨を文言上明確にしたにとどまるものというべく、本件において、如上の観点から予備的請求としての決議取消の訴が出訴期間内に提起されたものと認めることを妨げるものではない。

三以上のとおりであるから、原判決中、控訴人らの主位的請求を棄却した部分は正当であり(但し、請求の表示中、原判決一枚目裏九行目の「五月三日」とあるのは、訴状の記載に起因する明白な誤記であるから、「五月三〇日」と訂正されなければならない。)、右部分に対する控訴人らの控訴は理由がないが、予備的請求につき、出訴期間徒過の故をもつて不適法として訴を却下した部分は失当として取消を免れず、右請求につきさらに審理判断をなさしめるため、本件を原審裁判所に差し戻されなければならない。

よつて、民訴法三八四条・三八六条・三八八条・九五条・八九条に則り、主文のとおり判決する。

(高津環 横山長 三井哲夫)

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